要約
米国における大学教育では、小論文が重視され、主題に関する従来の学説の検討、分析、引用文献の呈示が求められる。さらに進んだら仮説の提出、その検証までも求められるかもしれない。これまでに生産された学術的成果に何かひとつでも付け加えることが重視される。
問題解決のための基本的な要素は、「『原因』と『結果』とを明瞭に定めて、問題の論理を組み立てる方法」のことである。原因と結果の因果関係を、「なぜ」という疑問に答える形で説明すること。命題(proposition)とは、判断を言葉で表したもの。そして、因果関係に関する二つの要素の論理的な関係は、仮説(hypothesis)と呼ぶ。仮説とは、結果となる現象が一定の方向に変化するような、条件に関する立言statementと定義できる。
記述(description)と説明(explanation)とは区別されるべきである。説明の方がより高度な研究。記述は現象を客観的に記録する。そこに「なぜ」にこたえるものではない。説明は、なぜ、という疑問から、結果として扱われる現象と、その原因となるはずの現象とを論理的に関係させる行為である。仮説の複合体をモデルという。現実のいくつかの特徴をぬきとってつくった模型のことである。
まずどの現象を説明しようか考える。そして、それの原因が何かを考える。まず最初に思いつくアイディアを大切にする。これは我々の固有の経験による場合が多いから、独自の見解になっておもしろい仮説を提出できる可能性があるからだ。
われわれがふだん事実(fact)とよぶのは、現実を概念(concept)によってきりとったものである。概念の修正、または新たな概念の創出こそが知的創造において極めて重要。実際には概念を具体化した指標を定めることが必要になってくる。作業定義では仮説、
そして一般的概念では理論となる。
結果は従属変数(dependent variable)、原因は独立変数(independent variable)とふつうよばれる。変数とは、数値をもった概念のこと。従属変数と独立変数の間には、時間的な前後関係がある。二つの変数は共変関係にある。独立変数以外の変数は、ふつう変化のないことが前提とされる。人工的に変化が統制された変数、あるいは変化しないと仮定された変数はパラメター(parameter)と呼ばれる。実験の場合は、実験群(experimental group)と統制群(control group)というふたつのできる限り等質な集団をつくる。
コンピュータによるサーヴェイ・リサーチの章は割愛。多変量解析が説明的である、など。
前章を受けて、質的方法も重要であることを説く。組織的比較例証法(systematic comparative illustration)によって、社会科学的に、質的分析を試みることができる。概念的に変数を操作し、因果関係についての推論を行い、歴史的資料によって、その推論を実証しようとする。引用される実例は、恣意的にならざるを得ない。
参加観察(participant observation)という方法もある。現場で、よい情報提供者と信頼できる関係を築く。事例がひとつということは、変数間の関係が固定で、その数値に変化がないということ。科学的には初歩的な調査法である。逸脱事例の調査は、比較例証と似ている。人類学もそう。
この本について
社会科学をやるなら、まずこれを読みなさいといって教授に薦められた本。1979年の発行から30刷以上を数える、社会科学方法論の日本における古典。買った後にパラパラとしか読んでいなかったので、端から読んでみた。現実をどう切り取って、捉えるか、という社会科学の真髄を解説したもの。かなりガチガチの方法論の記述が多いので、要約が引用ばかりになってしまったのは申し訳ない。
著者自身の留学経験が豊富に盛り込まれており、自慢話にきこえるようなきらいもある。アメリカ絶対主義的な感じもあるかもしれない。が、まあ話をわかりやすくしてるっちゃあしてる。同じ方法論でも留学先の学部で読まされたエヴェラなどと比べて具体例がわかりやすい。ちなみにエヴェラはほんとうにつまらなかった(笑)。日本の学部でも、社会科学的な方法を重視する教授の講義では、方法論に一コマ程割かれていた覚えがあるが、行政学の教授は、ヴェーバーの例など、この本を大いに参考にしているんじゃないかと思う。その教授はキング・コヘイン・ヴァーバも引用していたようだ。政治科学の方法論に限っていえば、私としては有斐閣アルマ「比較政治制度論」の序がわかりやすく、まとまっていたと思う。
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17/10/2012改
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