2012年12月4日火曜日

独立国家のつくりかた(2012)


坂口恭平:建築家。2001年早稲田大学工学部建築学科卒。


 路上生活者は、その日常の中で、独自の価値観を構築している。本を読むには図書館へ行く。水を飲むには公園へいけば良い。都会では、食料調達にも事欠かない。それはもはや、価値観というより、我々と全く異なった『レイヤー』に生きているといえるのではないか。そもそも、家賃というものが何故必要なのだろうか?土地に何故お金を払うのか?生存権を謳った憲法は本当にそれを発揮しているといえるのか?そもそも、色々おかしいんじゃないか?—人間として、その根源的な問いから、作者の旅が始まる。

 プライベートとパブリックとは明確に区別されるのではなく、部分的に重なっている、すなわち『レイヤー』として3次元的に捉えることが出来るのではないか、といった話など。既存の価値観を否定して、全く新しい形で社会をとらえる試行が綴られている。先程の『レイヤー』論は、私に次のプレゼンを想起させた。
http://www.ted.com/talks/lang/ja/jennifer_pahlka_coding_a_better_government.html
法的な意味での公的機関への期待が薄れ、実際その効力も希薄化する中、新たなパブリックとしての、いわゆる『賢い群衆』の萌芽に興奮を覚える。これについては、後日、リンダ・クラットン『WORK SHIFT』のレビューでもまた書きたいと思う。

 著者は3次元的な思考スキームを多用していて(彼の本業は建築家だ)、パブリック論という抽象的な議題に対して、素人でも容易に揮える武器を与えてくれる。自分の思考体系に飽きてしまった読者にとっても、上質な刺激になるだろう。

 補足だが、著者は絵も描く。彼のドローイングの中でも、特に、男性の頭部が都市化して3次元的に無秩序に広がっているモチーフは、人間の生命力と無限の思考を最もシンプルな形で表現しているといえる。私はもの凄く好きである。


 最後に、この本に出てくる『態度経済』というイデオロギーが私は本当に好きだ。そして、知らず知らずのうちにこれの上に生きてきたようだ。『態度経済』って何なの、そう少しでも思った貴方、実際にこの本を手に取られることを切に願う。

2012年12月2日日曜日

自分の中に毒を持て(1993)

著者:岡本太郎−芸術家


 「道で仏に会えば、仏を殺せ」−よく解らないけれどもなんだか凄みのあるこの言葉に、僕は惹かれた。生きるということは、自分を殺すことらしい。

 自己啓発本を超えた自己『爆発』本である。よく『魂を踊らせろ』というフレーズが出てきて、僕はそれを感覚的にわかったつもりで居た。左右の側面をぶち抜いて、直線に飛んで貫いて行くことだと思っていた。しかしそれは違うらしい。彼に言わせれば、それはそれで甘えた考えだと言う。解らなくもないのだ。しかしそこで、その甘えた自分を殺す、そこで血を吐いて、ようやく魂を踊らすことが出来るのだという。そうだろう、その通りだろうと今なら解るのだ。生きることは辛いことだ。

 加えて、彼は何か創造をすることが、人生を実りあるものにすると言っている。消費の空しさは、僕も皆も本当はよく知っている。もう完成度は気にしない。少なくともしばらくは、常に生み続けようと思う。自分と愛する人の人生に、色を付けよう。

 混沌と苦悩を経て、いつか大きく羽化したい人に、是非読んでほしい一冊。